宮崎LVS第1期の特別講座を開催しました

2019年は幕を開けたばかりですが、宮崎LVSはだんだんと終わりが近づいてきています。

第5回目となる今回の講師は、リディラバの安部敏樹さん、そして経済産業省の日高圭悟さんです。前半は齋藤潤一さんによるファシリテーションのもとトークセッションが、そして後半は10日後に迫ったプレゼン本番に向けてリハーサルが行われました。

講師プロフィール
安部敏樹 氏
東京大学在学中、社会問題をツアーにして発信・共有するプラットフォーム『リディラバ』を2009年に設立。250種類以上の社会問題のスタディツアーの実績があり、これまで8,000人を社会問題の現場に送り込む。また中学校の修学旅行や企業の研修旅行などにもスタディツアーを提供する。
2012年度より東京大学教養学部にて1・2年生向けに社会起業の授業を教え、2014年度より同大学で教員向けにも講義を持つ。特技はマグロを素手で取ること。第2回若者旅行を応援する取組表彰において観光庁長官賞(最優秀賞)を受賞。著作に『いつかリーダーになる君たちへ』(日経BP)などがある。

特別対談

まずはお二方の自己紹介から。

阿部:リディラバという組織の代表をしています。リディラバは、社会問題を発見する旅を提供することで、社会問題に関わる人の間口を広げています。
私がこの活動をしているのは、自分が社会問題に直面していた過去があるからです。中2くらいの時に家を追い出され、路上生活を送っていました。でも、誰も助けてくれなかったんです。未成年がタバコを吸っているのに冷たい目で通り過ぎて行くのって、おかしいですよね。
現状、当事者以外は問題意識を持っていないことがほとんどですが、それではいつまで経っても社会問題は解決しません。だから、いかに当事者以外の人が関われるか、そのきっかけをリディラバで作っています。

齋藤:原体験がしっかりしていて、それに対する解決策がすごいですね。

阿部:そうなんですけど、これはストーリーでしかなくて。起業する時、原体験は必ずといっていいほど聞かれますが、それはあくまでも「本当に事業を続けられるか」という証明の一つです。無理に作り出さなくても、ないならないでいいと思います。

日高:宮崎県日向市出身、現在は経済産業省で働いています。私は自分でソーシャルビジネスをやっているわけではありませんが、いろんな事例を見聞きし、実際の現場を訪れてもいます。その中で感じているのは、社会課題の解決は現場でしかできないということ。まだまだ「お国頼み」な面が強いのですが、国がやってくださいという姿勢ではなく、住んでいる人たちが変えていかなければなりません。もちろん国もサポートはしますが、自分ごととして課題を捉えて欲しいと思っています。

受講生の困りごとを解決

少人数制であることを生かし、受講生からの質問や悩みに沿ったトークセッションを行うことになりました。
一人一つずつ出し合いましたが、ここではその一部をご紹介します。

ー 阿部さんが事業を「続けられる!」と思った瞬間について、教えてください。やりたいと思う気持ちは膨らんできましたが、自信がありません。

阿部:そんな風に思ったことはないですね。悩みや不安は絶対消えないし、私は不安がある方がいいです。だって、「これならいける」と思うものは、今の自分や周りの人の想像力の範囲内でしかありませんから。それって大したことじゃないと思います。
誰かに「できるわけない」と言われたとしても、リスクを取ってない人のアドバイスにいちいち心を動かす必要はありません。それでしょんぼりする暇があったら、「信じるのは己のみ」くらいの意気込みでやり続けた方がいいです。

齋藤:物事を0から100で考えるのではなく、不安だったら1からやってみたらいいと思います。こゆ財団の挑戦だって、誰もやったことがないことなので「続けられる!」と思ってやっているわけではありません。
今はワクワクすること、続けたいことを見つけにくいような教育システムになっている気がするのですが、日高さん、その辺りどう思いますか?

日高:今は正解があるものに重きが置かれていて、思考力が伸びません。課題は全て与えられ、先生が言ったことをちゃんとできる子がいい子、という価値観は昔から変わっていません。なので私は、もっと現実社会で真剣勝負をしている人が学校教育の場に入って、どういう社会課題があるのかを教育の中で感じてもらえる機会を作りたいです。

ー 地方で勝負したい!と思っても、移住となると家族や仕事との兼ね合いが難しいです。

阿部:転職する時でも、周りからの反対は結構ありますよね。でも、自分が辛い時に家族で反対している人がいると余計に辛いので、ちゃんと人生観を含めて話し合った方がいいです。「3年で芽が出なかったらやめる」などという上限を儲けてもいいかもしれません。

齋藤:本人の熱意が一番大事です。自分が本当にワクワクすることを忠実に伝えれば、その熱意は電波するはず。実際、新富町にも2ヶ月で家族を引き連れて移住してきた人がいます。

日高:家族との信頼関係は移住に限った話ではなく、普段の生活でもキーになってくるものです。私の家では、妻もバリバリ働きたいタイプなので、保育園に通う子供の送迎をどちらがするかなどの話はよくします。時期によってそれぞれの忙しさは異なるので、夫婦間でうまく意思疎通をはかり、調整していくしかありません。

ー 事業を作る上で、オリジナリティはどのように作っていけばいいでしょうか。

阿部:正直、あんまり気にしたことはありません。ユニークであろうと思ってる人はユニークじゃないし、はりぼてブランドは作りたくないんですよね。リディラバは基本的に理想主義的で、未来はこうあるべき、というところから逆算して事業を考えています。その上で、ギリギリやれるかどうかを見極める審美眼を持つというのは大事にしていることです。

齋藤:行動している人が一番面白いですよね。止まったら死ぬくらいの感覚で走り続け、そのギリギリ感が色んな人を巻き込んでいける気がします。巻き込めば、そこで共感も生まれますしね。

最後に、齋藤さんからお二方への質問です。

齋藤:死ぬ時、どんな死に方をしたいですか?もしくは、それまでどうあり続けたいですか?私はローカルベンチャーで、一緒に新たな働き方を模索しているメンバーがいる中で死ねたら幸せなのですが。

日高:自分にとって楽しいことを最優先に生きていきたいです。一番重要なことを先に経験して、その他細かいことは後から付け足していけばいいので。建前で人生が終わるのはもったいないですから。
私はなんだかんだ国の仕事が好きで、経産省だからこそチャレンジできたこともあります。成功すると周りが「あれは自分のおかげで…」などと言ってくることもありますが、関わった人が多いというのは成功の証拠ということで、これからも誰に何を言われようと、突き進んでいきたいです。

阿部:自分のことを嫌いになりそうだと思うことはしない、というスタンスで生きていきたいです。世の中の大人は自分自身を知らなすぎて、見ていてそうはなりたくないと思います。私は子供の頃に自分と対話する時間がたくさんあったので、なんとなく生きるのではなく、優先順位を決めて行動に迷わないようにすることができているんだと思います。

本番前最後のプレゼンリハーサル

10日後に迫った公開プレゼンテーション。そのリハーサルを行い、阿部さんと日高さんからフィードバックを受けました。審査員はどういうところに注目し、どういう反応をするのかを知ることのできる貴重な機会です。

プレゼン時間は一人3分。限られた時間の中で、いかに分かりやすく事業内容を伝えられるかが鍵となります。
フィードバックは大きく分けて3つのポイントに分類されました。

新富町でやる意味は?

「他の地域でもできそうなことで、あえて新富町でやる意味がよくわからない」というフィードバックがありました。ゲストハウスや飲食業はどこの地域でもできそうなことであり、新富町だからこその強みを組み込んだり、弱みをカバーするものであることを示せなければ、その地域であることの理由がよく分かりません。
自分がやりたい事業と向き合うことももちろん大事ですが、それを行うフィールドとも向き合って考えることが重要です。

どんな価値があるのか?

プレゼン全体の構成として、「ポイントがありすぎてどこに注目したらわからない」ものがありました。その事業にどういう価値があり、どんな効果を地域にもたらすことができるのか、いまいち伝わらなかったようです。
しかし事業の価値は客となる人の需要に直結するでしょう。ここを分かりやすく明確に伝えられないと、どんなに中身が魅力的であっても需要は望めません。

審査員の興味をそそるものがほしい

プレゼンはいかに審査員の関心を引き出せるかが重要です。与えられた時間で説明しきれなくても、
「もっと話を聞いてみたい」と思わせることができればこちらの勝ちです。
審査員の心を動かすためには、まず関心を持ってもらうこと。

「具体的に、商品を食べているシーンが欲しいです。消費されているイメージがつくものがあるといいですね」

これは阿部さんからパパイヤのブランド化をしようとしている受講生へのフィードバックですが、パパイヤに限った話ではないでしょう。商品を手に取った人の消費イメージをプレゼンに組み込むと、審査員の想像が膨らみ、面白いと思ってもらえるかもしれません。

今後のアドバイス

最後に阿部さんと日高さんから、全体総括と今後のアドバイスをいただきました。

阿部:全体的に面白く、リディラバで一緒にやれそうなこともありました。事業はマーケティングコストがかかるものですが、集積していれば街がそれを負担してくれます。なので、これを機にみんなで新富町に移住して、みんなで勝負してみるのもありかもしれません。ただ、新富町が統一したブランディングをできているわけではないので、そこからみなさんがやれば、自身の優位性にも繋がると思います。
そしてもう一つ、色んな人に晒されてください。信じた道を突き進んで欲しいということは言いましたが、それは決して人の言うことを無視していいということではなく……。常に自分を信じ、人に晒されることを両立しながら進んでください。それでもやりたいと思えたら、それは本当にやりたいことだと思います。経営者は孤独になりがちなので、そういうときこそこのようなコミュニティを利用して、仲間とともに歩んでください。

日高:やはり、プランは実践してなんぼです。地方の満たされていないニーズを掘り起こし、磨き上げてプレゼンするのがゴールではなく、それを実際どうやってビジネスとして成り立たせるかが大事です。どうやったらうまくいくかを常に考えながら改善していってください。
国や補助金頼みは永続性がありませんが、サポートできることがあれば、ぜひ力になりたいと思います。

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事業をつくる参考になっただけでなく、力強く頼もしいサポーターと出会った受講生。
今回の講座で学んだことを最大限に組み込んだ最終プレゼンテーションが、1月19日に原宿で開催されます。
1回目の講座では「本当に自分が事業をつくることができるのか」と不安な顔をしていた人がほとんどでしたが、だんだんと起業家の顔になってきており、今から発表が楽しみでなりません。