企業×地域=無限の可能性を探る、というコンセプトのもと今年からスタートした「こゆチャレンジ大学(略してこゆチャレ)」。
第3回目はゲストに越後妻有・大地の芸術祭実行委員会事務局の高橋剛氏を招聘。2021年11月3日より新富町で初めての試みとして芸術祭開催が決定していることを受け、芸術によるまちづくりの先駆者である大地の芸術祭より、運営を担う十日町市産業観光部観光交流課芸術祭企画係高橋氏を迎え対談の実施を決定。新富町芸術祭の責任者である、こゆ財団甲斐との対談形式で、オンラインイベントを開催しました。
■開催:2021年6月28日(月) オンライン開催
■対談テーマ:「アートで地方創生は可能なのか」
■オンライン動画はコチラから(Youtubeページに飛びます)
■ゲスト講師:高橋剛 氏(大地の芸術祭実行委員会事務局)
■対談相手:甲斐隆児(地域商社こゆ財団/宮崎県新富町地域おこし協力隊
新富芸術祭キュレーター)
■モデレーター:有賀沙樹(一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 広報イノベーション専門官)
大地の芸術祭とは?
アートディレクターに「瀬戸内国際芸術祭」の総合ディレクターでもある北川フラム氏を招聘し、2000年より越後妻有の広大な里山を舞台とした「大地の芸術祭」を開催。過疎集落の空き家、廃校、棚田、川、河岸段丘、田園などの自然景観を活用して、国内外のアーティストたちが作品作りに取り組んでおり、3年ごとにトリエンナーレを開催している。2018年の会期中(7月~9月の51日間)には55万人を動員。アートが橋渡しとなって様々な人々が地域へ足を運び、地元住民と交流する姿を市内で見かけることが出来る。
※写真:棚田(作イリヤ&エミリア・カバコフ)越後妻有・大地の芸術祭ホームページ・作品一覧より
2021年11月3日~2022年1月30日、
新富芸術祭開催が決定!
地域の魅力発信、活性化を目的として地域おこし協力隊甲斐を中心に、初めて新富町で芸術祭が開催されます。
自身もアーティストである甲斐を中心に、新富町の魅力について新しい捉え方を提案していく新富芸術祭。新富町には、宮崎県で初めて日本遺産に認定された新田原古墳群や、新田神楽を初め4つの神楽が伝統芸能として古来から受け継がれています。他にも20年目を迎える町民ミュージカルなどの文化芸術が息づく町において、新富芸術祭では「地域の営みや暮らし」そのものをアートと捉え、様々な切り口で新富町の魅力を発信していきます。
合言葉は「ありがとう」。開催時期が1年の農作物の収穫時期に重なることも受け、収穫への感謝、日頃の身近な方への感謝など、こちらも様々な「ありがとう」をテーマに町民が参加できる表現方法を企画中です。
新富芸術祭では、11/3のキックオフイベントに始まり、宮崎県の劇団ユニット「あんてな」制作によるショートドラマ上映、地域おこし協力隊メンバーによる「LOCAL Curation展」なども予定しています。こちらは、詳細が決まり次第、順次発表して参ります。
越後妻有・大地の芸術祭×新富芸術祭
今回、このセッションを実現させたきっかけは私有賀の生い立ちに関係します。母の故郷が新潟県十日町市だったこともあり、幼いころからよく十日町に遊びに行っていたのですが、学生時代に大地の芸術祭に出会い、ボランティアスタッフとして運営に参加していました。この時から、「芸術×地方創生」というワードが頭にあり、今回、新富芸術祭の開催を受け、大地の芸術祭の運営陣へ連絡を取ったことが始まりでした。
セッションでは、新富芸術祭の構想、そして大地の芸術祭の取り組みや想いについてお互いに共有するところからスタート。大地の芸術祭の「人間は自然に内包される」という理念が、「地域の営みや暮らしそのものがアート」と捉える甲斐の理念と一致するところがありました。
高橋氏いわく、大地の芸術祭の効果として、地域住民の方々と一緒に作品作りをすることでコミュニティの強化や、若者や外国人との交流により賑わいづくりに繋がったと言います。
とは言え、様々な手段がある中で、越後妻有と新富町はなせ両者とも地方創生の切り口に芸術を選択したのでしょうか?本当に芸術によって地方創生は可能なのでしょうか?ここからはパネルディスカッション形式でお題を出して、進めていきました。
「そもそもアートって、何?」
皆さんは「アート」というと、何を思い浮かべますか?まずは、2人の「アート」に対する概念を聞いていくところからスタートします。
甲斐「初めは美術館などにある作品がアートでしたが、祖母が作ってくれた赤飯のおにぎりがアートなんじゃないかと思ったことがきっかけでリミッターが外れてアートの枠が非常に大きくなりました。どうしたら消費者に届くのかを考えている生産者さんを初め、地域の中にもアートは存在すると思っています。富田浜(ウミガメが産卵に上陸することで有名な新富町の浜辺)も生き物が食べたり食べられたりという連鎖や、光や風などの天候も合わさって、ひとつのフィールドが出来ています。人間が作れるものではないし、神様が作ったわけでもなくて、色々な要素が組み合わさって出来ている、つまりこれも1つの作品だと思っています。ですから、アートがやりたいわけではなくて、そういう魅力を秘めているということをアートを通じて発信してきたいと考えています」
高橋氏「私も共感するところがあって、わら細工とか当時は普通に使っていた道具も今見るとアートだったり、さかのぼると五重塔とかピラミッドとかもアートを作ろうとした訳ではなくて、生活していく中で作られたものが今となってはアートになっていますよね。赤飯のおにぎりも、ゆくゆくはアートして日の目を浴びる日が来るかもしれないですよね」
甲斐「実は今日古墳を見に行ったので、同じことを考えていました。当時は営みの中にあったものが、今はアートとして貴重な存在になっていますよね」
高橋氏「アートは想いの表現かな、と思っています。例えばイリヤ&エミリア・カバコフ作の棚田と言う作品(ページ上部の写真参照)では、アーティストの方が田んぼを営んでいる農家さんの想いを作品で表現したことにより、ただの風景がアートになりました。この想いが表面化されることがアートの役割かなと感じました」
「なぜ、まちづくりの手段がアート?」
甲斐「高橋さんも仰っていたように、アートって焦点を当てる要素もあると思います。私が考えているアートも決して異端的なものではなく、先行事例として佐藤卓さんのコメ展や、料理家広沢涼子さんのjikijiki展というものがあります。特に影響を受けているのが、プロフェッショナルと言う番組で地域の餅づくりが得意なおばあちゃんが取り上げられていた番組です。著名人が取り上げられている中で、この地域のおばあちゃんがプロフェッショナルとして取り上げられたことも衝撃でしたが、さらにその回が文化庁の芸術祭に出品されていたことを受けて、地域のものがアートとして見直される機会が作れればと思うようになりました。アートを使って地域の魅力作り、魅力発信をしたいと思っています」
高橋氏「お互いに町の抱える課題や状況が異なるので、それぞれのスタイルがあると思います。これから芸術祭をしようとしている甲斐さんにはプレッシャーかもしれませんが、大地の芸術祭は議員全員の反対から始まりました。なぜなら、目に見える道の舗装や施設作り、農地整備などがまちづくりと言われてきたからです。そんな中、私はまちづくりは変化の創造や価値の創造をしていくべきだと思っています。そして、アートはその役割を果たせると考えています。祭りや里山の遊び、農業など当たり前のことが人口減少、高齢化による後継者不足によって継続が困難になっています。実は、先ほどの棚田の作品になった田んぼを運営されていた方は農業をやめようとしたいたのですが、アート作品になって町の内外から評価されたことで存続を決めました。今はまつだい棚田バンクという里親制度を使って守られています。変化や価値を創造することで、新しい支援者も出てきているんです」
変化や価値の創造という延長線上で、農業をしながらサッカーでなでしこリーグを目指すFC越後妻有の話も飛び出しました。これは、新富町で地域おこし協力隊としても活躍する女子サッカーチームヴィアマテラスの活動に通ずるものがあり、フィールドは違えど変化や価値の創造に取り組むことで関わる人が増えているという点において共通点が見えてきました。
※写真:FC越後妻有
※写真:ヴィアマテラス宮崎のHPより
「地元町民はどう参加する?」
甲斐「まずは気になる方は11/3のキックオフイベントにぜひお越しください。より積極的に関わりたいと思ってくださった方は、こゆ財団の甲斐までご連絡ください!例えば、期間中に町内で演劇を上演する予定がある方であれば、それも芸術祭の一環として発信していくことが出来ますのでぜひご連絡ください」
高橋氏「大地の芸術祭では、持っている知恵や想いを誰かに伝えることで参加していただきました。例えばうぶすなの家という作品では空き家をリノベーションして農家レストランを展開。特別なものではなく、地域のお米屋野菜を使って地元のお母さん方が振舞ってくれます。お客さんが来ると十日町小唄と言う民謡を披露してくれ、自身も楽しみながら参加してくれています」
新富町では新富野菜と言われる野菜を中心とした農業や、ウナギの養殖が盛んでファンの方々が県内外にいます。新富町でも「食」に「アート」というフィルターをかけることで、色々な表現方法がありそうで甲斐と大地の芸術祭の事例を聞きながらワクワクしていました。
甲斐「新富野菜を食べられるこゆ野菜カフェに行くと、いつも感動します。旬の野菜を食べることができて、それぞれ説明してもらえるんですが、それを聞くとやっぱり(店長も)アーティストだなと思うんですよね。一見当たり前の食事だったものが、芸術祭で作品として提案することで町内外にその魅力が認められたら嬉しいですよね」
※写真:永住店長が作る新富野菜をふんだんに使ったランチが大人気です
「アートでまちづくりは、本当に可能?」
甲斐「アートでまちづくりと言うと今っぽい言い方な感じもしますが、文化芸術でまちづくりは昔からされていたんですよね。例えば芸を奉納するということは昔からされていて、それによってコミュニティも維持されていました。今はそういった芸の継承も難しくなっている現状もあるので、もう一度芸術祭を通じて繋げていきたいですね」
高橋氏「そうですね。結論から言うと、可能です!まちの魅力の再発見、まちに誇りを持つ、まちの魅力を伝えることで地域を元気にしていくのが大事だと思うんですね。例えば雪も豪雪地帯だから大変ではなく、雪の美しさを発信する雪花火など、雪もアートにして誇りを持って発信しています。共感を生むと行動も生み出すんですよね。横の軸だけでなく、子どもたちにどう誇りを持たせるかという縦の軸も大切にしています」
こゆ財団の執行理事高橋も「まちづくりは人と人の繋がりである」とよく話していますが、これは町外への広がりに限らず、その地に住む子どもたちにも言えることだと思います。
実は新富町では、今年4月に新富町の公式キャラクターおとみちゃんが誕生しています。おとみちゃんの誕生も新富町に縁が出来て会社ごと引っ越しをしたKIGURUMI.BIZとのコラボレーションにより実現しました。
※写真:おとみちゃんのお披露目イベントの様子
このおとみちゃんも、見方によっては新富町の魅力を発信していく上で一端を担うアート作品ともいえます。
今期はコロナ禍で延期を余儀なくされた大地の芸術祭ですが、その中でも今だからできることを、と前向きに取り組んでいらっしゃいます。(詳細はこちらから⇒大地の芸術祭延期について)
あっという間の1時間でしたが、最後に高橋氏より新富芸術祭への応援メッセージをいただきました。
高橋氏「新富町がやろうとしていることって特別なことではなくて、当たり前のものを大事にしたいという想いが根源にありますよね。その気持ちをみんなで共有しながら楽しんで芸術祭をやって欲しいなと思います。それが人から人に伝わることで、新富町の良さが少しずつ広がっていくと思いますので、ぜひとも楽しみぬいてもらいたいと思います」
甲斐「ありがとうございます!楽しみぬきたいと思います!」
対談後には、高橋氏より「アートに正解はないから何をやっても大丈夫!」という力強い言葉もいただきました。まずは主催する私たちが楽しみながらやることで、甲斐を筆頭に新富町のアート性を引き出して魅力を発信していきたいと思います。ぜひ、新富芸術祭のこれからの続報にもご期待ください。
今後も、こゆ財団はこゆチャレを通じて、様々な掛け合わせを楽しみながら新しい可能性の拡大へチャレンジして参ります。引き続きお楽しみください。
written by Saki Ariga