地域に眠っている情報の原石。それらを磨いて世の中に発信するためにはどうすればいいのか? そのために大事なことはなにか? 「共感を生む文章のつくりかた」をテーマに NewsPicks for Business 編集長・林亜季さんをお迎えし、そのヒントをお話しいただきました。
■開催:2020年8月5日(水) 15:30〜17:00
■対談テーマ:共感を生む文章のつくりかた
■オンライン動画はコチラから
■ゲスト講師:林 亜季 氏(NewsPicks for Business 編集長)
■モデレーター:齋藤潤一(こゆ財団 代表理事)、高橋邦男(こゆ財団 執行理事)
これからのビジネスには「編集力」が必要
当たり前に感じていたあらゆる事柄がコロナ禍で変化する中、今までと同じ打ち出し方ではビジネスも成り立たなくなっています。
そんな状況下でビジネスを再開させようと頑張ってはいるものの、伝え方に苦労している人が多く見受けられると話す林さん。林さんは、これからのビジネスで必要となるのは「伝えたいことが伝わる文脈づくり」であると考えています。
なぜ人は共感するのか
「共感(エンパシー)」とは、他者と喜怒哀楽の感情を共有すること。
自分が「美しい」と感じたことをそのまま「美しい」と表現しただけでは、受け手がそれを「美しい」と感じることはありません。
そこにいろいろなファクト(事実)を散りばめることによって、相手にも「美しい」と感じさせることができるのです。そのために大切なのはしっかりと取材すること。
これは、林さんが編集者時代に何度も怒られながら身に着けていった力なのだそうです。
いま、人の心を動かすコンテクスト(文脈)とは
上の表は、コロナによって消費者の価値観がどれだけ変わっているかということをまとめたものです。
これらのことから林さんは、これからの時代において何かメッセージを伝えたい時には「必然」「本質」「人間味」、この3つを意識して伝えていきたいと考えています。
たとえば人と会うことが減ったコロナ禍においても、消費者に服を買ってもらうにはどうすればいいのかという問題について。
ユニクロは、コロナ禍の早い段階で在宅時間を快適に過ごす服装を「おうちスタイル」として打ち出し、24時間家にいることを想定していなかった多くの人に対して「ユニクロのECで在宅用の服を買う」という必然性をうまく作り出していきました。
また、「①地域や企業が伝えたいことを発信すること」「②読者の立場としてニュースを探す」この2つのアプローチ法も大事だといいます。
そもそも読者にとっての「ニュース」とは何か。林さんは以下のように考えています。
とりわけ「④時代を感じる」「⑤社会や業界の方向性を示す」「⑨ストーリーがある」「⑩課題解決につながる」これらは、今の人々に特に刺さる内容ではないかと話します。
1粒1000円「新富ライチ」のニュース性
こゆ財団・齋藤が執筆した1000円ライチのコラムを例に、林さんはこう解説します。
まず、このライチが「1粒450円」だったらこの記事はニュースとして成り立ちません。
「1粒1000円」というところにニュース性があり、読んだ人は「どんなライチ?」という興味を抱きます。
また、どれだけ「美味しいライチです」と書いても「1粒1000円」に対する説得力はありません。記事の中に「糖度15度以上」「重さ50グラム以上」というファクトを散りばめることによって、1粒1000円のライチに対する納得感が生まれ、それが「食べてみたい」という共感につながるのです。
ナラティブアプローチの威力
必然、本質、人間味の3つを伝えるために、誰もができる一番の近道が「ナラティブ」です。
ナラティブとは一人称で語ることを指します。
これまで1000本以上の記事を書いてきた林さんですが、その中で一番読まれているのは林さんご自身のことを書いた記事(※URLはコチラ)でした。
もう一つが、今年の4月1日に掲載されたコロナ患者の手記(※URLはコチラ)。
このことから、林さんは「人の心を動かすのはナラティブな記事である」と実感しています。「これだけ情報が溢れている今の時代だからこそ、ナラティブは人の心により訴えかけることができて共感されるのではないか」と話しました。
「自分のことを自分の言葉でしか書けないこと」。これがナラティブアプローチの威力なのです。
リード文で立てた問いに本文で答える
林さんは、書き続けることによって書き手としてのアップデートができると話します。そのために、今もなお他の時間を削ってでも取材をして経験を作っているのだとか。
林さんが書く理由。それは「この人おもしろい!」と思う人のことを、自分の視点で捉えて自分の言葉で伝えることが好きだから。
全力で書いて、取材先の人に見せた時の「我が意を得たり」みたいな反応や、読者からの反応が林さんのモチベーションにつながっているといいます。
もし、書きながら頭の中が情報でいっぱいになってしまったときは、「なぜ取材しようと思ったのか」「なぜ書こうと思ったのか」という原点に立ち戻るといいそうです。
自分で立てた問いを忘れたりごちゃごちゃになってしまったりすると、それに答えられなくなってしまいます。
「あれも書かなきゃ、これも書かなきゃ」ではなく、リード文(導入部分)で立てた問いに本文で答えていくことを意識することが、文章を書く際のポイントとなるそうです。
伝わる・共感される文章を書くためのアプローチや思考のヒントがたくさん詰まった今回のトークセッション。振り返りつつ、あらためて地域や自社の情報発信に向き合ってみたいものです。