組織の枠を超え、それぞれが「民」の心で協働。地域内にも関係人口を育てよう

2020年8月1日、一般財団法人こゆ地域づくり推進機構(通称こゆ財団)はオンラインイベント『みやざき関係人口創出サミット』を開催しました。

これからの地方創生では、観光以上移住未満の「関係人口」をいかにして地域に生み出し、課題解決や地域活性化につなげていけるのでしょう。そのために、どのように産官学の垣根を超えてオープンイノベーションを加速していくことができるのでしょうか。

その答えは、「地域内関係人口」を推進し、「産官学を言わない」「産官学それぞれが民である」という言葉に集約。目の覚めるような変化球、しかし納得の結論でした。

“関係人口の提唱者”ソトコト編集長・指出さん基調講演
ソーシャルイノベーションの事例から見えるもの

こゆ財団・福島梓さん(新富町地域おこし協力隊)の司会・進行で、こゆ財団チーフ関係人口オフィサーの橋本健太さんによる開会挨拶でスタート。
まずはじめに、“関係人口の提唱者”と称されるソトコト編集長・指出一正さんの基調講演です。

昨年よりデジタル版もスタートした『ソーシャル&エコ マガジン ソトコト』。2017年10月には、私たちこゆ財団も設立半年で取り上げていただいたメディアです。

▲こゆ財団が掲載された『ソトコト』。表紙もこゆ財団メンバーと町の皆さん

関係人口と連携した地域づくりの3つの視点とは?

さまざまな地域に発生した関係人口の事例を紹介しながら、関係人口と連携した地域づくりについて、指出さんは3つの視点を掲げました。

①関係案内所と関係案内人
②老舗メディアとの連携
③SDGs的

①その地域と接点をつくるための関係案内所や関係案内人はいるか、②地域に認知してもらうにはSNSより地元新聞が有効、ということ。

そして、③今や未来を語る上で欠かせないSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)的な視点がベースにあるかどうか。環境や貧困問題、社会課題を解決しながら持続可能な地域づくり、コミュニティ形成を目指すことで、共感を呼び人が集まってきます。
産官学連携においても、SDGs的思想がいかに柔らかく根底を流れつつ繋いでいるか、ということがポイントとなりそうです。

コロナ禍から生まれた「オンライン関係人口」と「地域内関係人口」

2020年は新型コロナの影響で、都市部から地方へといった直接的な移動は一旦停止に。そんな制限のもと発達したのが、「オンライン関係人口」と「地域内関係人口」だと指出さんは指摘します。

・オンラインによるコミュニケーションが広まったことで、個人対個人で繋がりやすくなった。地域の関係人口となりそうな世代が30代から20代へ下がった。
・より狭い圏域での関係人口「地域内関係人口」が生まれた。

時代の流れや状況を汲み取り、地域づくりに落とし込む。そして向かうべき方向と可能性を提示してくれる指出さんの講演は、コロナ禍の私たちに多くの気づきを与えてくれるものでした。

これからの地域は“社会課題解決の場”
自助共助の心で、自分ごととして地域と関わる

【第二部 パネルディスカッション①】
産:公益社団法人日本プロサッカーリーグ 社会連携本部 本部長 鈴木 順 氏
学:東京都市大学 都市生活学部 准教授 坂倉杏介 氏
モデレーター:こゆ財団 教育イノベーション推進専門官 中山 隆

創造的な誤作動が、創造的な出会いを生む

コミュニティマネジメントを専門とする東京都市大学准教授・坂倉杏介先生より、大学と地域が関わる関係人口的ソーシャルイノベーションの可能性について、大学のゼミで取り組む『おやまちリビングプロジェクト』をご紹介いただきました。

「人は住んでいるが交流が希薄。うちの商店街はこのままでいいのか」。
大学と同じ世田谷区内、尾山台にある商店街が舞台。30代の1人の男性が、大学へ相談を持ちかけたことからこのプロジェクトは生まれました。

夕方16〜18時、商店街が歩行者天国の時間帯を活用し、研究室のゼミを路上で開催。それを皮切りに、この場所から様々なチャレンジが生まれました。
・企業との研究開発
・小学校と連携したSDGs授業
・地元の訪問医療クリニックと新しい地域医療の研究&実践 等

「どのセクターも自分たちの課題を自分たちだけで解決できない。そこで地域に“様々な社会課題を解決するための場”という、新しいまちづくりの視座が生まれたのです」。

いろんな人たちが集まる場を地域につくり、足を止めるきっかけをつくる。
つまり、「創造的な誤作動(エラー)が起きると、創造的な出会いが生まれる」
この言葉は、参加者たちの心に刺さる衝撃的なものでした。

「産官学+民」「産官学それぞれが民」

そして、“産”からJリーグの社会連携本部長を務める鈴木 順さん。ご紹介いただいたのは、Jリーグ社会連携プロジェクト『シャレン!』の取り組みです。

シャレン!』とは、Jリーグや各地域のチームが知名度を活用してもらいながら、自治体や団体、企業などを結びつけるハブ的役割を担うことで、社会連携活動をバックアップするものです。クラブ含め3者以上が協働し、社会課題=共通テーマの解決を目的としています。

その事例紹介の後に、こんな言葉が。
「産官学だけでなく、そこに『民(市民、地域住民)』が自分ごととして関わることで、地域がより豊かになるのではないでしょうか」。

産官学+民。

鈴木さんのその言葉に参加者全員が共感。

パネリスト・坂倉先生も呼応し、
「同時に、産官学それぞれが『民』。組織の立場だけでなく、社会の一員として、社会を良くしたいという想いをもって活動する人が集まった時、掛け算が起こりやすいのです」
と言葉を加えました。

今年度、Jリーグ入りを目指すサッカーチーム「テゲバジャーロ宮崎」のホームスタジアムが新富町内に完成予定。新富町にとって、今後の活動の指針としたい内容でした。

産官学を意識せず、地域内関係人口を増やそう!

【第二部 パネルディスカッション②】
産:KIGURUMI.BIZ株式会社 代表取締役 加納ひろみ 氏
学:宮崎大学 客員教授 永山英也(ながやまひでなり) 氏
モデレーター:こゆ財団 執行理事 高橋 邦男

さて、パネルディスカッション第2部は宮崎県内からのご登壇です。

36年間県庁職員として産官学連携に関わってこられた永山さん。2020年7月に宮崎市から新富町へ本社・工場をまるっと移転された『KIGURUMI.BIZ株式会社』の加納ひろみさん。

お二人とも、常日頃から新富町の活性化へお力を貸してくださっている頼もしい仲間です。

産官学の垣根は人の心の中にある

こゆ財団:さて、産官学連携について話しましょう。産官学にはどうも垣根があるように思うのですが…お二人はどう感じていらっしゃいますか?

永山さん:垣根をつくっているのは「人」です。産官学の連携には、実は「産官学を言わない」ことがポイント。意識しないことです。先ほどの、「一人ひとりが民である」という言葉はとても素晴らしい。それぞれの経験や立場を生かしながら、垣根を設けずに話をすることです。

こゆ財団:産官学と言わない、かぁ〜。なるほど!

加納さん:正直私は垣根ってあまりピンとこないし、私自身は産官学を意識して動いたことはないですね。誰に会いたいか、誰に相談したいかであって、所属はほとんど関係ないです。私も先ほどの「それぞれが民」の言葉、刺さりました。関わりたいのは結局個人、つまり“民としての人”なんですよね。

こゆ財団:それぞれが「民」の気持ちで、フラットにつながることが大切なのですね。

▲永山さん、加納さん共にご登壇くださった、こゆ財団主催のイベントにて

学生との連携で「地域内関係人口」

こゆ財団:加納さんは今後、新富町の芸術のまちづくり事業に関わってくださいます。新富町に大学はないので、宮崎大学他の学生さんたちも関わってくれると有り難いですね。

永山さん:ぜひ学生と関わりをつくってください。今まさに私たちも大学生に、オンラインを活用して様々な交流を仕掛けています。学生たちから気づきをもらうことも多く、今後いろんな関わり合いが可能になると思い楽しみです。

加納さん:大学生だけじゃなく、高校生も小中学生にもぜひ関わってもらいたいし、教えてもらいたいな。ものづくりだけでなく、情報発信などプロジェクトの多方面で協力してほしいですね!

こゆ財団:これも指出さんがおっしゃった「地域内関係人口」が広まるチャンスになりそう。多様な方々とつくっていきたいですね。ぜひ皆さんのお力をお貸しください!

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これからの産官学や関係人口創出における、とても大切な気づきをたくさん得られた今回のイベント。ぜひ今度はオフラインで、「それぞれが民」の心で意見を交わし合いたいものですね。

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